最初に違和感を覚えたのは、自分の皮膚に張り付く部屋の空気にだった。

 衣服をまとっている上からでもわかる、いやにじっとりしていて、でも確実に体温を奪っていくそれは、僕が思い浮かべる、いつもの情景には存在しないもので。

 少し前まで夢を見ていたような気がするのを考えるに、普段起きないような時間に目覚めてしまったのだろうか。

 身体にはすっかり仕事のための生活リズムが染みこんでいる、と思っていたのだけれど。

「う、ううん」

 どうにも身体が軋む気がする。眠りが浅かったのか、それともあまり寝返ることができなかったのか。

 そういえば、今日はいつも同部屋で隣に寝ているはずの、共に働くメイドのキャロルさんの寝息も、心なしか小さい気が。

 というか、全く聞こえないような?

(キャロル……さん?)

 思わず、部屋の向かいにあるはずの、キャロルさんが寝ているベッドへと、僕は声を投げかけようとした。

 愚かな僕は、ここでようやく身に降り掛かっている異様な事態に気づく。

 全く声を出すことができなかったのだ。両手首と口に、縄をかけられていることによって!

「ん、んーー、んーーっ」

 体を捻り、手に絡みつく縄が解けないか祈りながら、自分の周りを確認する。

 壁紙も何もないむき出しの壁に、土の地面があからさまに露出している床。普段見るそれとは異なり、部屋の作りは随分と貧相だった。

 動転して、思わず大きく声をあげようとする。けれど、ほとんど塞がった口からは辛うじて唸り声と、かすかに息を漏らすことしか叶わない。

 これをどうにかして外さなければと、両腕を動かそうにしても、ベッドの端に両手を縄で固定されている。

 僕はただ身をよじってうなりながら、自らを縛る縄が何か気まぐれを起こしてほどけることを期待するしかなかった。

 身をよじるうちに、僕は自分がなぜこのような状況に陥っているのか、記憶をたどりながら徐々に思い起こしていく。

 確か、こうなる前に僕は街に出ていたはずだ。

 そしてその出かけた理由というのが、ハダリーさま、つまり僕が仕えるお嬢さまたちの内の一人に、あるものがどうしても見てみたいということで、調達できないかと相談されたことで。

 ここまで思い出して、僕はなんてものを買いにいったのだろうと、この状況で呆れ返ってしまった。

 というか、たとえ機械の体と頭脳をもつ方で、この世の中について何も知らないとはいえ、なんてものを僕に買わせに行かせたのだろうか、ハダリーさまは。

 結局強く拒否もできずに買いに行った僕も僕なのだけど、それにしたって、どうしてハダリーさまは僕にあんな買い物を頼んで……

 ふいに、僕は自分のいる部屋の外から、人が近づいてきたことに気づいた。ドアがあるであろう方向からかすかに光が漏れ、足音が聞こえたのだ。

 足音はばたばたと随分がさつさが目立ち、その生い立ちが音だけでもわかる。さらにその様子から、どうやらドアの先にいる人物たちは複数いるのだ、というところまで、僕は理解した。

 足音が大きくなるにつれ、その音の主たちが何かを話しながらこちらに向かっているようだ、と気づく。

 部屋の壁越しでは聞き取りきれない声で、何を話しているのかはさっぱりわからないけれど、少なくとも彼らが男性の集団である、ということは僕にもわかる。

 足音は突然に止む。そして、薄いドアは軋む音をたてながらゆっくりと開き、その裏にいる者たちの姿を僕にみせつける。

 そこには部屋の外に置かれている薄暗い照明に照らされ、男が四、五人、顔ににまにまとした笑いを貼り付けながら立っていた。

 丈が合わず、裾が地面にこすれたズボンを履き、縁が擦り切れた帽子を深々とかぶっている者もいれば、くたびれた綿のシャツに、継ぎつくされた油染みだらけのコートを着用した者もいる。

 その身なりから、彼らが少なくともロンディニウム東の、労働者の出であろうことは容易に察することができた。

「おやぁ、お嬢さんはどうやらお目覚めのようだ」

 僕の瞳が開いていることを確認して、男たちのうちの一人がそのように発した。顔の様子と、部屋に入ってきた足取りを見るに、彼らの多数はどうやら酒に酔っているように見える。

「もうちっと寝てもらっていた方が、色々と事を進められたんだが」

「んー! んーー!」

 僕は必死になって、彼らに言葉を投げかけようとする。あなたたちは誰なんだ、ここはどこなんだ、なぜ僕をこんな風に縛り上げるんだ。

 僕の懸命な努力も、口からは全て唸りとして発せられた。そしてその様子を周りの男たちは楽しそうに眺めている。

 この視線を、僕は全く違う場所と状況で見たことがあった。

 子供たちが、虫の羽根を面白そうにむしる時のような。または大人たちが犬同士をけしかけ、どちらが勝つか賭けに興じる時のような。

 弱いもので楽しもうとする者の目だ。

「んーーぅ! んー!」

 僕があまりにも強く唸り続けるからか、連中の一人が比較的若い男に向かって、顎を使って僕の方を示す。すぐさま若い男は僕の口を覆う轡を外した。間髪入れずに、僕は彼らに向かってこう叫ぶ。

「な、なんなんですかあなたたちは!? ぼ、わ、わたしをここから離してください!」

 言葉の勢いで縛られた体を動かそうとしたためか、手首に縛られた縄が体に食い込み、皮膚がこすれる。痛い……!

「ん、ぐう……」

「まあ、まあ、そう力みなさんな、お嬢ちゃん」

 男たちの一人が、笑みを浮かべてこちらに近づいた。そして僕が横たわるベッドの端に腰掛けると、突然僕の膝をゆっくりと撫で回し始めた。

「ひっ……」

 思わず僕は足を触る男の手から離れようともがく。しかし男は僕の両足をはっしとつかんで、なおも僕のふくらはぎをまさぐり続けようとする。

 その手つきは割れ物を扱っているようで、でも明らかに僕の足を、劣情の証として弄んでいるように思えた。

「やっ、やめ……一体何を……」

「おっと、お嬢ちゃん。あんまり大きい声を出すんじゃねえぞ」

 男たちの中でも比較的体の大きい、悪く言えば特に肥えている人物が、僕の眼前に自分の顔をぐいと近づける。

 その吐息の臭いのすさまじさに、僕は思わず顔をしかめてしまう。

 ついさっきまでそこらで酒盛りをしていたと言わんばかりのジンの臭いに、脂臭さ、そして口臭が混じった不快なその息を間近で吸わなければならないなんて!

 アルコールを口に含んでもいないのに、頭がくらくらしてくるような、そんな錯覚を僕は覚えた。

「おいおい、そんな顔しないでくれよ」

 ニタリと、目の前にいる顔は僕に向かって笑いかける。

 男は僕の両頬を大きな片手で、果実を握りつぶすように掴む。

 男の手が口腔をいびつな形にゆがませ、僕はうまく発声することが、できないし、息をすることも、ままならない。

「んぅ、ぐうぅ」

「じっと静かにしてりゃあ、必要以上に痛いことはしねえよ。

そう、事が済んで、俺たちを満足させてくれりゃあな」

 言って、男は、さらに僕の顔へと、自分の顔を近づける。「お嬢ちゃん」と呼ばれた僕は、これから男が一体何を、しようとしているのか、頭に思い浮かべる前に、唇を……

「ん、あむっ」

「ぐ、ん、じゅ、ちゅ、んぉぅ、おむっ」

 酒にささくれ、荒れた唇は、僕をただ、獣として求める。

 太く大きい舌は僕の、口を無理やり開かせようと力強くうねり、僕の歯を舐め、口腔に唾液を送り続けた。その濁流に僕の口は抗いきれず、思わず少しだけ、顎の力を弱めてしまう。

 その油断を、男の舌先が、逃すはずが、なかった。

「ん、じゅ、う、ん、お、おほっ、おぼぼっ、ず、ぢゅぅぅう」

「え、ぅ、ぉ」

 僕の舌に、男の舌が絡み合い、もつれ合う。

 男は自分の口内にある、嫌に長い舌を更に僕の中へと侵入させるべく、僕の口に覆い被さるように、自らの口を大きく開く。

 僕はどうにかして、顎と舌を使ってそれを食い止めようとするけれど、男の力強い侵攻を止めることができない。

「おっと、お嬢ちゃん、下のほうがお留守じゃあないかい?」

 気が付けば、僕の耳に口を近寄らせた別の男が、僕にそう囁きかける。目の前の太った男の顔が視界を遮っていたおかげで、足を撫でまわす男への対処が全くできていなかったのだ。

「ぐっ、ん、ぁっ」

 両足を大きく動かそうとしても無駄だった。

 大人の男が複数人で僕を押さえつけているこの状況では、いくら僕が足に力を入れ、動かそうとしてもびくともしない。

 僕が必至に抵抗とするさまをあざ笑うかのように、これまでふくらはぎを弄り回していた手は少しづつ、足を辿って僕の体幹へと近づいていく。

 膝から上に達し、そしてふとももを渡る触覚を感じる僕は、その行為に鳥肌を立てた。が、それよりも気持ちの上では恐怖のほうが勝っていた。

 なぜなら、僕は……女性の恰好をしてはいるのだけれど、性別は男性だからだ。

 今、僕を蹂躙している彼らは、おそらく僕の本当の性別を知らないのだろう。そうでないなら、なんで僕なんかにこんな、こんな酷いことをしようというのか。

「ほら、ほら。早くしないと君の大切なところに到達してしまうぞ」

 僕は焦る。見ず知らずの人間にここまでのことを行える男たちだ。僕の正体を知れば最後、その性欲が暴力となって僕に襲い掛かってきてもおかしくはない。

 僕は男の言葉を聞き、彼らの捕縛を振り払おうと懸命にもがく。しかし彼らの行為に抵抗しようとすればするほど、男たちは僕を強くベッドへ押さえつけようとした。

 僕は、彼らの力の前に、何もなすことができないのだ。

 スカートの中をその目的へと、僕の脚をさすりながら向かっていた男の手は、ついに僕の太ももから上に手を伸ばす。

 そして、そこについているモノに触れたその手は、その存在に驚きを……示しているそぶりを見せない?

 男の手はまず、僕のモノの様子を確認するかのように、それを撫でまわし、そして僕の先端を急に、ぎゅっと、片手で、握りしめたっ。

「あぐっ」

 強烈な刺激に、自分に行われていること、そして男たちの僕への好色を伴った視線の意味が、僕の頭の中で入り混じる。

 彼らは、僕のことを、男性だとわかっていながら、僕を性の対象として欲している? 僕の今の恰好ですら、正体を察した人からしてみればひどく滑稽なものに映るはず、なのに。

 混乱し続けている僕を、周りの男たちはニヤニヤと見続ける。彼らの行為に、僕は目によって服を脱がされ、そして体中を舐めまわされている気分になり、怖気を覚えた。

「意外そうな顔をしているな、お嬢ちゃん」

 僕の口を先ほど吸い続けた肥満男が、僕の顔を片手でむりやり男の顔へと向けて話しかける。

「そう、俺たちはおまえの正体を知っているんだ。とても面白い、奇妙な対象としてな。そして、その正体を勤め先にバラされたくないってことも」

「くっ、なんでっ、い、いつからそのことをっ」

 僕の質問に、男はただ一言こう返しただけだった。

「そんなこと、今のお前が知ったところでどうなるってんだ?」

 言って男は、どこから持ってきたのか、ジンの瓶を片手に持ち、のけぞる勢いでそれをあおる。そして酒を口に含んだまま、僕と唇を合わせた。

……

「うっ、くっ、ふ、う、ぅん……」

 僕の下半身に這いずり回る無数の手は、僕のモノに一度まとわりつき始めた後、絶えず僕を刺激し続けていた。

 僕にとって、それは侮辱そのものだった。たとえ僕の姿が女性であったとしても、僕は僕だ。一人の男性で、紳士……には、まだ、ほど遠いかもしれないけれど。

 でも、こんな屈辱的な行為を黙って受け続けるような人間ではない。

 僕は自分の正体がバレていると知らされてからもずっと、彼らの手からどうにか逃れられないかと考え、そしてその行われる恥辱に体を使って抵抗していた……でも。

「う、ぃ、んっ、んっ、ぁっ」

「こら、口のほうサボってんじゃねえか、もっと、もっと俺の舌を舐めろ」

「んんんっ」

 僕は痩せぎすの男に無理やり顔を向けさせられ、強引に唇を奪われた。いや、唇だけじゃない。男の舌は僕の口先に触れた途端、唇を強引にこじ開け、そして僕の中へとこれでもかと言わんばかりに侵入してくるのだ。

「な、こいつの舌をかみ切ろうなんて考えを浮かべんじゃねえぞ」

 僕の目の色を察したのか、先に僕の口を犯し、今は僕の胸を服越しに弄んでいる太った男が僕へささやきかける。

「そんなことをすりゃあ、お前自身がどうなるか……わかってるな」

「んん……」

 怯む僕の隙を突き、キスをしている男は、僕の口のさらに奥深くまで舌を進める。

 僕の口と、そして下半身は既に、僕から出た体液で湿っていて、周りの男が僕に何かをするたびに、くちょくちょと音がする。その音はあまりにも大きく、できることなら僕は自分の耳を抑え、一切を聞き入れたくなかった。

「は、はぁむっ、んっ、んんっ」

「じゅっ、じゅぷっ、んぐ。くへへ、お前だけじゃないぞ、『ヴァイオラ君』。ここでの抵抗は、ひいてはお前のお使え先の評判にも影を落とす」

 言って、男は複数枚のブロマイドを、僕の目の前へと突きつけた。それは男女が絡み合い、性器を互いに刺激しあう様子を事細かに写しているものだ。

 ハダリーさまは、何を思ったのか、これが欲しいと言い出し、僕にブロマイドの買い物を任せたのだった。

 曰く、「私が知っている歴史上の知識とこの世界が本当に対応しているのか確認したい」ということらしくて、決して邪な気持ちはない、ということだったのだけれど。

「さる高貴な出の娘さんがこんな物をご所望していたと新聞に垂れ込めば、それを読んだ世間の皆様は一体どんな顔をして、あんたのご主人さまを見ることになるだろうな?

全く、ただとっ捕まえて、お嬢ちゃんの正体だけで脅すつもりが、こんなブツまで持っているたあね」

 彼らはどうやらさすがにハダリーさまのことは知らないらしかった。でも、メアリーさまに件の写真についての悪評が付けば、ハダリーさまにもどのような影響が来るか、わかったものじゃない。

 僕は、男の言うとおりに抵抗を緩めるほかなかった。

「なあ、聞こえるか、お嬢ちゃん。あんたのちんこがさっきから鳴らしている、スケベな音をさ」

 僕の胸を服越しに弄る男が、僕の、既に浸潤仕切って湿った音を立てる性器を示して問いかける。先ほどから胸を触る手はゆっくりと僕の先端の周りを指先でなぞり続けていて、そしてその行為に飽きることもなく、

「なあ、聞こえるかって、聞いてるんだ、よっ」

「んんっ」

 いきなり男は、僕の両胸の先端を、強く、捻るように、握りしめっ、たっ。軽く顎を閉じたおかげで、僕の口中を舐めまわしていた男の舌を噛みかける。

「んぎっ、てめえこの!」

 すぐさま僕から舌を抜いた男は反射的に、僕の顔に平手を!

「いぅ……!」

「糞が! 気を付けやがれこの雌犬め!」

 彼はそのまま、太った男に顔を向けてしゃべり続ける。

「おまえも少しは注意しろ! 舌が丸ごと無くなるところだったじゃねえか!」

「ああ、まあすまんすまん」

 僕の体をまさぐりながら、男は言った。口づけ男の舌がどうなろうと、全く知ったことではない風な口ぶりだった。

 喚き散らす口づけ男をよそに、彼は僕の胸の先を、先ほどでは、ないにせよ、その、強く、擦ったり、引っ張ったり、して、刺激、し続けている。

 彼の触り方は執拗だった。最初は、先端の周りを、くるくると指を、這わせるだけの、ただくすぐったいだけの、不快なもの、だったのに。少しづつ、慣らすように、引っ張ったり、くにくに、されると、なんだか、その、変な、気分に……

「それよりも、お嬢ちゃんの様子を見な。さっきから随分と乳首にご執心のようでな。今も息が上がってきていてうるさいくらいだぜ」

「そ、そんなっ……はずは」

 思わず反論しようとする僕の喉を伝う息は、しかしとても、荒い。僕は自分の、喉の震えを認識して初めて、その声が、とても、憂いというか、切なさというか、そんなものが込められているように、感じてっ……!

「ほう、そんなに息も絶え絶えにして、よく強がっていられるな」

 男はベッドの上に腰を落ち着かせ、僕に密着し、胸を更にこね回し続ける。僕の、反応を見るのが、そんなに嬉しいのか、男に喜々として慰み者にされる僕の体は、僕の思いに反して、反して、んんっ。

「しかし、こうもびくびくと反応するとはなぁ。普段から弄ってたのか、お嬢ちゃん」

 男の一人の言葉に思わず、顔がかぁっとなる。

「おいおい、こっちは当てずっぽうで言っただけなんだぜ。そこまでわかりやすく反応するとは」

「ち、ちが、僕は」

「こんなにも女ん服が似合うんだ、夜な夜な誰もいない時に、女物の服でも着て、自分の姿にちんぽおっ立てながら自慰に励んでんだろ?」

「違う、違う……」

「こう、片手で自分の乳首を弄りながら、かね」

「ぁ、んっ、違う、ちが……」

 僕の体は、嘘をつき続けることを、すでに諦めてしまっていた。

 最初は小川程度だったはずの悦楽の流れは、今は大きな川となって、僕の頭の中になだれ込み続けている。

 あ、ああぁ、ごめんなさい、ごめんなさい。神さま、どうか、こんな獣めいた肉欲に溺れる僕を、どうかお許し下さい。夜な夜な、僕が行ってきた秘め事を、どうかお許し下さい……

「あ、ぁ、はぁ、ん、ちが、違うん、ちが」

 僕の口は、自分の感じていることを否定し続ける。図星を突かれたことに対して、どうにか心の安定を、保ちたかったから。

 気づけば瞳からは涙が次から次へと溢れ出ていた。体を駆け巡る快楽が、僕の体から悲しみを押し出し、それが水分となって漏れているのだと、なぜか不思議な想像が頭に浮かぶ。

「喘ぎながら言っても説得力がねえなあ。おっ、泣くな泣くな」

 言いながら男の一人が、僕の涙を舌で舐め取る。

 僕はその行為に対し、もう眉をしかめることも、大声を上げることもできずに、ただ涙で頬を濡らすことしかできなかった。

「ふむ、できあがりつつあるな。一旦締めに入るかね」

「この調子なら両手を自由にしてもろくに抵抗もしないだろ。おい、ジンの瓶をもう一本だ!」

 誰か、男がそういい、僕の口に何か冷たい、筒のようなものを差し込もうとする。筒からは冷たい液体が溢れてくるので、僕はそれを自分の喉で受け取った。

 頭がふらふらとする。体が、熱い。

 もう、ずいぶんと、変態たちに肉体をおもちゃにされ続けている、と思う。

 口からは、唾液が溢れ続けていて、誰かがそこを、ねっとりと舐め回したり、ビンに入った液体……薄暗くてわかりにくいのだけれど、たぶんジンを、流し込んだり、している。

 服はナイフ、で、体の正面から、両開きのドアの、ように、真ん中から裂かれ、皮膚が露出し、外の空気と、男たちの太い指が直に触れる。

 這い回る指は、さながらミミズの、ように僕の体を、無秩序に弄り回し、そのたびに僕は。

「あっ、あっ、はっ、ぁあっ!」

 自分の耳に入る、部屋に響き渡る嬌声が、僕自身のものであるとは信じられない。

 なぜ、こんなにも、体をめちゃめちゃにされているのに、僕の体は、快楽を貪るような、反応をしているのだろう。僕には、自分の体のことが、何一つ、理解できていなかった。

「ん、んっちゅう、ちゅ、ちゅぽっ!」

 僕の胸を吸っていた男が音を立てて口を離す。同時に、陰部をしつこく弄り回している別の男の様子を見て、こう口に出した。

「な、なあ。お、おで、そろそろ、この子のものを……」

 言って、僕の腹を撫でながら、下腹部へと腕を下していく。

 そこには下着をも破られて露になった陰部が、僕の意図に反し、興奮を抑えられないかのように膨らみ、僕の喘ぎに合わせて波打っていた。

 男たちは一方で僕の陰茎の付け根まわりを、さもマッサージするかのようにぐにぐにと揉みしだく。また別の手は僕の先端に伸び、頭の部分を壊れものを扱う手つきで、弱く、しかしテンポよく刺激していた。

「んぁ、あ、はぁ、ぅう、ん、ん、んっ」

「ああ、もうたまんね。早く、こいつのものを咥えてみてえ」

「おいおい、本気かよ。いくらなんでもそこまでするのは」

「お、なんだ。てめえはあんまりオスガキ、弄っちゃいねえのか?」

 俺はただ、いい日銭を稼ぐ仕事としてここに来ただけで、という言葉が僕の下腹部のほうから聞こえる。ならこちらにまかせなと、胸を吸っていた男は先に陰部を弄っていた者をどかし、僕の両太ももの間に陣取った。

 男は間近から僕のものを凝視しているのか、フーッ、フーッと荒く口から漏らす声が聞こえるに合わせ、僕のものにその、熱い息がかかる。思わず、僕はそのまとわりつく吐息に合わせるように、ぴく、ぴくりと僕を跳ねるように反応させた。

「き、期待しているのか?」

 男は下劣な笑みを浮かべ僕に話しかける。僕は、どうにかして、言い返そうとしたけれど、酒が全身に回っているために、上手く舌を動かすことができない。

「き、きたいなんら、し、してら、んひゃぁ!」

 僕の返答を待たず、男は僕のものを、いきなり喉の、奥深くへ、届くほどに口へとっ、ん、あっ、は、っあっ!

「ん、じゅるっ、じゅ、じゅーっ。んぶ、じゅるっ」

 あ、う、な、なにこれ、なにこれぇっ。ぼ、僕の、陰部、にっ、男の、口腔が、ぴったりと、密着してっ。

 根本から、さきっぽまで、僕のっ、僕の体に、悦楽を流しこんでっ。

「へえ、明らかにいい反応を返したな」

 誰かが、僕のすぐそばで、様子を見てそうつぶやく。僕の反論の言葉は、でも、足の間にいる男のせいで、喘ぎと、してしかでてこない。

「や、やだっ、やめ、ぁ、やあっ、あっ、あっ」

「気持ちいいんだろ? ほら、認めろよ。『自分は野郎におちんちんを舐められてヨガっているメス』だって」

「ちがっ、ちがうっ……」

「く、くくくっ。今のその状況をまざまざと見せられて、その上でその言葉たぁ、説得力のかけらもねえぞ」

 その会話を聞いていたからか、僕の、陰部を、口に含む男はっ、そのしげ、刺激をっ、さらに、強くっ。

 あっ、は、やだっ、やだっ、やだぁ! きもちよくなんて、ないっ。きもちよくないっ。僕は、僕はそんな、変態なんかじゃ、や、ぁ、あっ、ぁっ!

 僕の、心とは、裏腹に、体は男の口腔を、求めるように、びくりっ、びくっと、波打って。それに呼応して、男は締め付けを強めたり、僕の先っぽを舌でちろちろと、舐めているかと思えば、急に、その、おしっこが出る穴を、舌で刺激してきたりしてっ。

 僕は、陰部を口で嬲り回す男の行為に、抵抗する術を、何も持てなかった。

「ぁ、ぁっ、い、も、もう、い、ぃっちゃ、はぁっ、んぐっ」

 そして、僕は精を吐き出す。自分の、肉体の欲求にすら、僕は翻弄されるしかなかった。

 びく、びくく、と、全身から僕の陰部へと何かが流れ出すような感覚と、同時にしびれるような享楽が僕の頭を麻痺させる。

 この瞬間だけ、僕はこの場の状況など何も考えず、情欲に心を満たす獣となったのだった。

「ん、あっ、ああっ……あぁ……ぅ」

「んぶっ……ぐ、ん……ぷはあ! う、うまかった、ど、お嬢ちゃん」

 陰茎を咥えていた男は立ち上がる。そして、部屋にいる各々が、ぐてりとベッドの上に横たわる僕を、何か、小さな動物を可愛がろうとするかのような表情で見つめてくる。

 僕はその様子を朦朧とした頭で眺め、そして意識を失った。